先日、たまたま与謝蕪村の句に出会い、ネットで作品を拾っていたところ、もっと知りたくなって、思わず萩原朔太郎の「郷愁の詩人与謝蕪村」という本を買いました。
その本を読みながら、これまた、たまたまシューベルトの「白鳥の歌」を聴いていたら、その二人の作品の波長が交じりあい、えも言われぬ世界が目の前に広がったような気がして、心が震えました。
シューベルトの歌曲集「白鳥の歌」は、彼自身が編集したものではなく、友人の出版者 トピアス・ハスリンガー達が、彼の死後、遺作の14曲をまとめて出版したものです。
そして出版する際に、「白鳥は死ぬ間際に、最も美しい声で鳴く」というヨーロッパの伝説に基づいて、「白鳥の歌」と、名付けられました。
私が今聴いているのは、フィッシャー=ディースカウの歌、ジェラルド・ムーアのピアノのものです。この素晴らしいCDについての事、それから 与謝蕪村の本の事については、また別の機会に…今回は、「白鳥の歌」という伝説について、書いてみようと思います。
この伝説について、私は プラトンの「パイドン」という本を読むまでは、'白鳥が鳴くのは この世を去る悲しみからだ 'と思っていました。'最後に振り絞った哀しき声が とても美しく聞こえるのだ' と。無意識に、「鳴く」と 「泣く」を混同させてしまっていたようです。「パイドン」には次のように書いてありました。
"白鳥は、死ななければならないと気づくと、それ以前にも歌ってはいたのだが、そのときにはとくに力いっぱい、また極めて美しく歌うのである。それというのも、この鳥は神[アポロン]の召使いなのだが、その神のみもとへまさに立ち去ろうとしていることを、喜ぶからなのである。ところが、人間たちは自分自身が死を恐れているから、白鳥についても嘘をつき、白鳥は死を嘆くあまりその苦痛のために別離の歌をうたうのだ、と言っている。しかし、人々が考えてもみない点は、どんな鳥も、飢えたり、凍えたり、なにかその他の苦痛に苦しむときには、けっして歌わない、ということだ。伝説によれば、苦痛のために嘆きの歌をうたっていると言われている、ナイチンゲールとか燕とか仏法僧でさえ、そうではないのである。僕には、これらの鳥もかの白鳥も苦しみながら歌っているようには見えない。むしろ、僕が思うには、白鳥は神アポロンの召使いであるから予言の力をもち、その力によってハデスの国にある善いことを予知し、まさに死なんとするかの日には、それ以前のいかなる日々にもまして特別に歌い喜ぶのである。"
(「パイドン」プラトン著 岩田靖夫訳 岩波文庫 より引用 )
そう。「鳴く」と思い込んでいましたが、「歌う」なのですね。
シューベルトの曲は、歌曲もピアノ曲も ミサ曲も交響曲も…全て「白鳥の歌」のような気がします。
どれも皆、この世のものとは思えないくらい美しい調べです。
彼の その人生は、素晴らしい才能に見合ったような 順風満帆なものではありませんでした。そして 窮乏の中に、31歳という若さで亡くなりました。
でも 短い人生の中、美しく歌い、そして喜びの中 天に昇って行ったのだと信じたいです。
…秋の夜は、幽玄に遊びます…
4 件のコメント:
シューベルトでは、マリア・ジョアオ・ピリスのピアノによる
「ピアノソナタ第18番 幻想」
はいいですね。
光の中、空に浮いていく感じです。
私はポリフォニーなどの構成至上主義で、モノフォニー音楽を愛好していません。その私が例外的に好きなモノフォニー曲はいくつかありますが「白鳥の歌」の最終曲「鳩の使い」もその一つです。
この曲、構成的には何の面白さがなく作りも平板です。ピアノの右手はバリトンとユニゾンになったりしてますます構成美から遠ざかります。しかし好きなのです。不思議ですね。シューベルトというのはそういう作曲家なのでしょうか。
路傍の小石さん、私もピアノソナタ18番、大好きです。
秋の夜に聞いていると、空想の世界に行ってしまうような気がします。光の中、空に浮いていく感じ…まさしく「幻想」ですね!暖炉のそばで、火をぼんやり眺めてながら聴くのも良いでしょうね…
私はピリスの1985年の録音のものを聴いています。
腕の故障から復活した後のものですが、想いがこもっていて知的で本当に素晴らしいと思います。
ジョヴァンニさん、コメントありがとうございます。
私は構成というよりは、「なんか 好き」とか「なんか美しい」の超 直感人間(あ!鳥です) ですが、「鳩の使い」、好きです…というか、ぐっと来るというか、ああ!もう!私はなんてボキャブラリーが貧弱なんでしょう!表現の言葉がみつかりません。
シューベルトの書く「長調」は、「悲しくても優しく微笑んでいる」感じがします。特にこの曲は、それが一番表れていると思います。死への絶望感がありながら、それでも笑っている…って感じがするのです。「鳩の名前はあこがれ…」
この曲はシューベルトの絶筆とされているので、本当の「白鳥の歌」なんですよね…切ないです。切ないけど、ホッともします。
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