現在、チェリストのヨーヨー・マ さんが来日されていらっしゃるようですね。
彼は 東日本大震災の直後から「フォー・ザ・ピープル・オブ・ジャパン」と銘打ったプロジェクトを いち早く立ち上げ、世界中にいる友人たちに自ら連絡をとり、
「勇気を失ったり悲しみにくれている人に、悲劇に立ち向かう力を与えよう。日本へ パフォーマンスを届けよう」
と呼びかけてくださいました。
今回 10月29日夜、東京のサントリーホールで行われた演奏会。
そのアンコールで使用されたチェロは、東日本大震災の津波で流された住宅の柱などを使って作られたものだそうです。
チェロの内部には「魂柱」という重要な部分があるのですが、その「魂柱」には、岩手県の陸前高田市の海岸で 津波に流されずに1本だけ残った「奇跡の一本松」が使われているそうです。
ヨーヨー・マさんはそのチェロで「鳥の歌」を演奏し、震災の犠牲者を追悼してくださったということです。
「鳥の歌」は、スペインのチェリスト、パブロ・カザルスが カタルーニャ民謡を編曲したもので、故郷への思いや 平和への祈りが込められた曲です。
私はカザルス自身が、ケネディ大統領の招きにより、ホワイトハウスの舞踏室で演奏したCDを持っています。
カザルスは、スペインがフランコの独裁政権下に入って以降 「二度と故国に帰らない。その政権を承認する国では絶対に演奏会を開かない 」という信条がありましたが、「平和を希求するケネディ大統領の前ならば…」と、ホワイトハウスの招きに応じました。これは その際の録音です。
不朽の名演だと思います。
メンデルスゾーンのピアノ三重奏から始まる(これも本当に素晴らしい!)その演奏会の最後に演奏された「鳥の歌」…
心に深く染み入ります。
晩年のカザルスは、この曲を好んで演奏しました。
1971年の国連で行われた演奏会でも、
「カタロニアの小鳥たちは、青い空に飛び上がると ピース・ピース と言って鳴くのです。」
と、紹介しました。
私はチェロの音が大好きです。チェロの音域は 人の声の音域とちょうど重なると言われていますが、低い音から高い音まで 弦が深く響きます。そして 優しく語りかけられる感じがして、とても癒されます。特に夕暮れ時に静かに聴くチェロの音には魔力があるような気がします。
今回の 「ヨーヨー・マ演奏による鳥の歌」…まさに 祈りのチェロですね。