2013年9月27日金曜日

青山の魔宴 3〜吟遊詩人による

(前回からの続き)


その「使いの者」に促されて、私達4人はいよいよ会食の会場へと案内されました。待合室を出て廊下を進むと、両側の壁面には多くの絵画が架けられていました。そしてそれらは待合室で観たのと同じように邪悪な雰囲気を漂わせていたのです。


廊下の途中に設置された大理石の彫刻も禍々しいオーラを放っていました。そのうちの1つはある種の動物を彫ったものに見えましたが、この地球上のいかなる生物にも似ていませんでした。

ペンギンのような足に海綿状の胴体が乗っており、上のほうには長く鉤爪の付いた触腕が伸びているのです。そして最悪なことに、頭のあるべき所には海百合のような物が蠢いていたのです!

神経を逆なでするような廊下を通り抜けると、そこはダイニングルームでした。待合室よりもさらに美しく、落ち着いた暖炉、厚手の絨毯、きらびやかなシャンデリア、高価な絵画などが目に入りました。そして、案の定、この場所の幾何学も、この世のものではなかったのです。

私達4人は6人掛けの丸テーブルに案内されました。当初6名で申し入れしていたので、6人用のテーブルが用意されたのでしょう。しかしそのうちの1つはテッツ・パーカスのために置かれたもので、その座り手が来場しないことは誠に寂しい限りでした。

そしてもう一つの空席は、若手女性エンジニアのさくらのためです。さくらはいつ来るのでしょうか。そして建物に辿り着いたとしても、どうやって中に入るのでしょうか?しかし今はさくらの事を心配する心の余裕がありません。これから始まるであろう邪悪な宴のことを考えると・・・。

すると、いったん姿を消していた先ほどの「使いの者」が再び現れ、私達のテーブルにやって来ました。どうやら彼はウェイターも兼務しているようです。そして食前のワインについて話し始めました。


あおいみみずくは、
ワインと聞いた瞬間、赤ワイン、そしてヴァンパイアを想像して身震いしました。しかし「使いの者」は静かな口調でシャンパン、あるいは普通の白ワインという選択肢を説明していました。ワインに詳しいマリネリスは白ワインを選び、「使いの者」はうやうやしくお辞儀をして立ち去りました。

私がこんなに恐怖心を高めているのに、飲むのが好きな吟遊詩人は「早くワインが来ないかな」等と、この雰囲気にそぐわない事を口走っていました。もっともそれは、震える心を隠す手段だったのかもしれません。一方学究肌の宝来先生は、私と同様、怖かったのでしょうけど、恐怖心を抑え静かな笑みを浮かべていました。

そうこうするうちに「使いの者」が再び現れ、手にしたワインを4人のワイングラスに順番に注いで回りました。この地下世界ではレディーファーストが定めらしく、最初に私にサーブしてくれたのが嬉しく、恐怖におののく中で清涼剤を得た感じでした。そしてそのワインの味は格別でした。


そして前菜が運ばれてきました。季節の野菜、生ハムなどが美しくアレンジされ、食欲をそそりました。これはバッハのポリフォニー作品の如く絶妙の構成感を具現しているようでした。美味の白ワインの力もあり、私達は恐怖を忘れてひと時、食事を楽しみました。

次は魚料理に進みます。「使いの者」は食事プレートをサーブした後、追加された白ワインを再び各自のワイングラスに注ぎ回りました。その時です。マリネリスのスマホの着メロが鳴ったのは。若手女性エンジニアさくらが入口に到着したのです。

マリネリスは私達が入った時と同じ呪文「ルブン サンア ヤチル カスロク、マ ゴケ ラヒ」をさくらに伝えました。果たしてさくらはその呪文を正しく用い、開口部を開くことができるでしょうか?

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