私の周りには、その道の師匠がたくさんいらっしゃいます。
その中の、「芸術、文化、その他、八百万の師匠」より、昨日の私の記事についてのコメントメールを頂きました。「FUGAでなくてFUGU」という題名だったのですが、その言葉選びにすごく感動したので、今日は河豚(FUGU)でなくてフーガ(FUGA)について書こうと思います。
私が、「今」、「フーガ」と聞いてすぐに思い浮かべる曲は、ベートーヴェンのピアノソナタ op.110 のフーガです。このソナタのフーガはちょっと変わっています。「嘆きのうた」が、ゆっくり歌われ、高潔なるフーガへ移行し、堂々たる展開を見せたと思ったら、また「嘆きののうた」が現れ、再びフーガの転回形に入り、高らかに歌い上げられ終結する。私が以前この曲を弾いていた時は、最初のフーガの後に「またしても嘆きのうたが入る」という所が、どう考えてもよく解りませんでした。演奏していても気持ちがそこで途切れてしまい、どうしても感覚がつかめない。ところが先日、「ストン」と腑に落ちた。本当に「ストン」と、音がした感じでした。不思議。それも、生徒がレッスンで弾いたのを聴いた時です。その演奏は「ものすごく達者」という訳ではないけれど、とても心のこもったものでした。
私は先日、高校からずっと一緒に頑張って来た親友を突然の事故で亡くしました。これから馬鹿な話もしたりしながら、一緒に歳を取って行こうと思っていた大切な友人でした。彼女を失った喪失感は思ったより深く、しばらくは何をしても「楽しい」といった感情をもてず、その言葉を何処かにおき忘れて来たかのような感覚でした。
そんな時に、レッスンに来た生徒が、このop.110を弾いてくれたのです。一楽章、二楽章、と進み、最初の「嘆きのうた」…哀しみが襲って来ました。フーガで気持ちを立て直したのも束の間、2回目の「嘆きのうた」…重い物を背負って、足を引き摺りながら丘を登って行くかのようなイメージ。人の気持ちなんて、思うようにならない…。しかし、登りきった後にまるで大きな扉をドーンドーン!と、叩くかのような音!その後に、ギギーっと天国の扉がゆっくり開き、そこから光が溢れ出て来るかのように、フーガが聞こえて来ました。その音と光が色々に形を変え、光のペガサスになり、大空を駆け巡り、天に向かって一気に昇って行く。そんなイメージが、私の脳裏に本当にはっきりと浮かんだのです。…でもまあ実際は、天国への扉が開いた所で生徒は体力不足で息切れを起こし、最終的には「お腹の空いたペガサスが、怪しげな軌道で低空飛行をし、最後、砂漠に不時着した」という感じだったのですが…(ー ー;) でも、扉が開き、光が一瞬差し込んだ所では、不覚にも涙してしまいました。「ああ、友人は、天国に向かったんだ。」と、理由もなく納得した瞬間でした。
きっと彼女は光の国にいる…そう思った瞬間、私に「楽しい」という感覚が戻って来たんです。それから私にとって、この曲は、亡くなった友人への思いと共に、忘れ難い一曲になりました。…と、ここで今日の記事は終わり。と思ったのですが、怪しい低空飛行して、砂漠で尻餅をついた生徒について、フォローさせてください。
彼女はこの前、レッスンに来るなり、「スポーツジムに入会しました!」と言うんです。
「何故また?」と問うと、「体力をつけて、ベートーヴェンのソナタを全楽章、最後までちゃんと弾ききりたいんです!」というお言葉!!私はすぐさまありったけの彼女の爪の垢を頂き、煎じ、たっぷり一気に飲み干しました。
(追記)
前述の、「芸術、文化、その他、八百万の師匠」から、メールが届きました。
「師匠というには支障がある」そうですが…(⌒-⌒; )
思わず、*\(^o^)/*ほおおお!と、唸ってしまいました。以下は全文、師匠からのコメントです。是非お読みください!
〜以下〜
.FUGAの件
「さっちゃん」の節で:
♪FUGAはね
♪FUGUEと言うんだドイツではね
♪だけどあんまりフグに似てて露骨だと思ったから
♪FUGAにしたんだよ
♪美味しいね、フグ
(3行目は、とてつもなく字余り)。
バッハの「フーガの技法」の第19番は4つの主題のフーガですが未完成です。
完成していれば最後に4つの主題が重なって同時に鳴ることがわかっています。
私は弦楽四重奏向けに4つの主題によるフーガを作り、既に初演しています。
最後に4つの主題が同時に鳴ります。
これって、バッハが出来なかったことを成し遂げたのだから
★バッハを超えたんだ!★・・・
という強引な理論をまくしたてる「音楽暴走族」の私でした。
以上